地球の周りを漂う宇宙ゴミ、正式にはスペースデブリと呼ばれるこれらの物体は、人工衛星の残骸やロケットの破片などです。
これらの宇宙ゴミの除去は、今後の宇宙開発にとって大きな課題となっています。
この課題に対する一つの解決策として注目されているのが、日本の漁業技術です。
特に、JAXAと広島の老舗漁網メーカー「日東製網」(福山市)が協力して進めている計画があります。
宇宙ゴミを漁網で一網打尽!その計画とは?
この計画では、全長数キロの特殊なひもである導電性テザーを使って宇宙ゴミを集め、そのスピードを減速させます。
そして、減速したゴミを大気圏に再突入させて燃やす、というものです。
日東製網が作るこの導電性テザーは、アルミワイヤとステンレス繊維を組み合わせた素材で、金属を使って編まれた長さ数キロにわたる網です。
この導電性テザーを捕獲衛星に積み込んでロケットで打ち上げ、捕獲衛星が軌道に乗った後は、捕獲衛星のロボットアームで宇宙ゴミに網を取り付け、その後アームの先端を切り離します。
導電性テザーで宇宙ゴミを捕獲できる理由とは?
導電性テザーは地球の周りを周回しながら少しずつ電気を帯びていきます。
すると地球の磁場が導電性テザーに影響を与え、少しずつ高度を下げさせる力となって働きます。
これにより、大気圏にゴミごと再突入させることが可能となり、その後大気圏に突入したゴミが燃え尽きます。
導電性テザーの最大のメリット
導電性テザーの最大のメリットは、燃料が不要であることです。
これにより、燃料タンクやエンジンなどの装置が必要なく、衛星の大きさやコストを抑えることができます。
また、構造が複雑化しないため、構造上の欠陥も生まれにくくなります。
日東製網の紹介
日東製網は、1925年(大正14年)に創業した老舗企業です。
無結節網(むけっせつあみ)の製造機を開発し、無結節網の国内シェアの半分以上を占めるトップ企業となりました。
導電性テザーの開発依頼は、JAXAから6年ほど前に行われました。
現在は捕獲衛星の打ち上げ時期等は未定ですが、2年後を目指しています。
宇宙と海が結びつく
宇宙と海が結びつくという事実には驚きますが、これからも宇宙に対して日本が培ってきた漁業技術が役立つ場面が多くなりそうです。
海洋技術が宇宙で活躍することは、近くに海がある場所に住む私たちにとって誇らしいことです。
宇宙ゴミの現状
宇宙ゴミは、人間の宇宙活動によって生じた、宇宙空間に漂う人工物のことを指します。
これらは、使われなくなった衛星、ロケットの残骸、宇宙船からの排出物など、さまざまな種類があります。
現在、地球周辺の宇宙空間には数十万個もの宇宙ゴミが存在していると推定されています。
宇宙ゴミの量と種類
宇宙ゴミの量は年々増加しており、その大部分は、人間の宇宙開発活動によって生じたものです。
これらのゴミは、大きさや形状、材質などにより、さまざまな種類に分類されます。
一部のゴミは自然に地球の大気に再突入し、焼き尽くされますが、多くは長期間にわたって宇宙空間に留まり続けます。
宇宙ゴミが宇宙開発に与える影響
宇宙ゴミは、その高速での運動により、衛星や宇宙船に対する脅威となります。
衝突による損傷は、重大な事故を引き起こす可能性があります。
また、宇宙ゴミが増えることで、新たな衛星の打ち上げや、宇宙探査の安全性が脅かされる可能性があります。
宇宙ゴミ除去の必要性
宇宙ゴミの除去は、宇宙の安全性を確保するために極めて重要です。
宇宙ゴミが増え続けると、衛星や宇宙船への衝突リスクが増大し、宇宙開発の進行を阻害する可能性があります。
そのため、宇宙ゴミの監視と管理、そして可能な限りの除去が求められています。
現在、さまざまな技術が開発されており、これらを用いて宇宙ゴミの除去を試みる取り組みが行われています。
しかし、その実現にはまだ多くの課題が残されています。
これらの課題を克服し、宇宙の安全性を確保するために、引き続き研究と開発が必要とされています。
宇宙ゴミ除去の課題
従来の宇宙ゴミ除去技術 従来の宇宙ゴミ除去技術には、レーザーを用いた方法や、専用の衛星を使って物理的にゴミを捕獲する方法などがあります。
レーザーを用いた方法では、地球上のレーザー施設から高出力のレーザーを宇宙ゴミに照射し、ゴミの表面を蒸発させて反動で軌道を変え、大気圏に再突入させるというものです。
一方、専用の衛星を使った方法では、衛星が宇宙ゴミに近づき、機械的に把持して大気圏に突入させるというものです。
従来の技術の課題
しかし、これらの従来の技術にはいくつかの課題があります。
まず、レーザーを用いた方法では、高出力のレーザーを安定して宇宙ゴミに照射し続けるための技術や、レーザーの照射によるゴミの軌道変更を正確に制御するための技術が必要となります。
また、専用の衛星を使った方法では、衛星が宇宙ゴミに近づき、把持するための精密な制御技術や、衛星自体のコストが問題となります。
導電性テザーの利点
これらの課題を解決するために、導電性テザーという新しい技術が注目されています。
導電性テザーは、宇宙船から伸ばした導電性の紐(テザー)に電流を流すことで、地磁場との相互作用により推力を得るというものです。
この技術は、ほとんど燃料を必要とせず、長期間にわたって微小な推力を得ることができるため、宇宙ゴミの軌道変更や除去に有効とされています。
また、導電性テザーは地球周辺だけでなく、他の惑星周辺でも利用可能であると考えられています。
導電性テザーの構造
導電性テザーは、宇宙船から伸ばされた導電性の紐(テザー)で、その長さは数百mから数kmに及びます。
テザーの主な構成要素は、周辺プラズマと電子の授受を行うためのプラズマコンタクタが両端に必要となります。
電子を放出するためのエミッタとしては、電子銃やホローカソード、電界放出型電子源(FEC)が、電子収集には球状コレクタやホローカソード、ベアテザー(被覆無し導線)が提案されています。
導電性テザーの製造方法
導電性テザーの製造方法については、具体的な詳細は公開されていないようです。
しかし、一部の研究では、導電性テザーの一部としてカーボンナノチューブ(CNT)を利用した電子放出デバイスが使用されています。
また、ベアテザーは被覆無し導線のテザー自体を電子収集に用いるというアイデアで、球状プラズマコンタクタよりも電子流入効率が良いという利点を持っています。
導電性テザーの動作原理
導電性テザーの動作原理は、宇宙船から伸ばされた導電性のテザーが地球の磁場を横切ることにより誘導起電力が生じるというものです。
テザーの一端で地球周辺のプラズマから電子を収集し、もう一端で電子を放出することにより、回路が構成されテザーに電流が流れます。
この電流と地球磁場との相互作用によってローレンツ力が発生し、推力が得られます。
このローレンツ力は速度方向と逆向きであり、宇宙機の軌道を降下させることが可能である。
また、同時に発電することができ、電力を搭載機器に使用可能である。
導電性テザーの今後の開発計画
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、導電性テザー技術の開発を進めています。
具体的には、「こうのとり」(HTV)を利用したテザー伸展と電流駆動の軌道上実証を行う計画があります。
この実証実験では、デブリ除去実現の最初のステップとして、世界に先駆けて、大型デブリの除去にかかる要素技術を習得し、宇宙活動の安全確保に寄与することを目指しています。
導電性テザーの商業化の可能性
導電性テザー技術は、その高効率と低コストの特性から、宇宙デブリ除去装置としての商業化が期待されています。
JAXAは、小型ロケット向けの超軽量高性能軌道離脱装置を開発し、宇宙デブリ拡散防止の事業化を目指しています。
導電性テザーが宇宙開発に与える影響
導電性テザー技術は、宇宙開発における重要な役割を果たすと考えられています。
具体的には、地球周回軌道上に存在する大型デブリの除去が有効であり、そのための推進系として導電性テザーが有望とされています。
また、導電性テザーは地球周回軌道だけでなく、他の惑星周辺でも利用可能であると考えられています。
これらの特性から、導電性テザー技術は、宇宙開発の安全性を確保し、さらなる探査活動を可能にする重要な技術となると期待されています。
日本の宇宙ゴミ除去技術の現状
日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙活動の安全を確保し、持続可能な宇宙開発を将来にわたって進めていくために、政府・内外の関係機関との連携強化を進めるとともに、スペースデブリに関する様々な研究開発に取り組んでいます。
現在、スペースデブリ除去については、事業化を目指す民間事業者と連携し、世界初の大型デブリ除去等の技術実証(CRD2 Commercial Removal of Debris Demonstration:商業デブリ除去実証)を実施しています。
日本の宇宙ゴミ除去技術の優位性
日本は、レーザーを用いたスペースデブリ除去技術の開発において、世界的に見ても先駆けています。
この技術は、デブリの速度を減速させて大気圏に落として除去したり、デブリの軌道を変えたりすることで、衛星との衝突を防ぐことができます。
また、この技術は小型デブリにも対応可能であり、現存するデブリの大部分は小型のものであることを考慮すると、小型デブリへの対処も重要である。
日本の宇宙ゴミ除去技術の将来展望
日本の宇宙ベンチャー企業であるアストロスケールは、宇宙デブリ問題の解決を目指すサービスに専業で取り組む世界初の民間企業です。
また、スカパーJSATは、国立研究開発法人理化学研究所、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学、国立大学法人九州大学と連携して、世界初となるレーザーを使ったスペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去する衛星の設計・開発に着手し、2026年のサービス提供を目指しています。
これらの取り組みは、日本が宇宙ゴミ除去技術の開発において、世界をリードしていることを示しています。